【精索静脈瘤の手術体験談5】手術前日~手術当日①|支払い・手術準備・点滴の続きです。
手術室の様子・剃毛
手術室に入ると、まずは大きなアーム付きの顕微鏡が目に入った。これで術部を拡大しながら手術するわけだ。
名を名乗るよう言われたので、大きな声で名乗った。どうやら万が一にも間違いがないようにするための決まりのようだ。
すぐにベッドに寝かされ、ベテラン風の看護師(女性)にバリカンで陰毛を剃られた。全て剃られる覚悟で来たが、私の場合は静脈瘤が左側にしかなかったので、左側の毛だけをしっかり剃れば良いようだ。陰嚢の毛も助かったので、思ったよりも恥ずかしい状態にならずに済んだ。
ドストエフスキーに例えるとこんな感じだ。
剃毛(ていもう)が済むと、イソジンのようなものを塗られて股間周辺が満遍なく殺菌され、手術用の布をかぶせられた。
最終的に、手術室の中は大まかにこんな感じになった。ここに看護師が6~7人、医者が2人いる。この手術は医師が2人がかりで行うのだ。
手術の具体的方法~麻酔~
医者が入ってくると、あれよあれよという間にことが運ばれてゆく。
まず、「頑張りましょう」と声をかけられるので、威勢よく「はい!」と返事。
すぐに皮膚の上から手で静脈瘤の位置を確認され、切る場所にマジックで印がつけられた。
この辺のことは、顕微鏡の画像が右にあるモニターに表示されているので、私は何が行われているのか手に取るように分かった。
次に局部麻酔の注射。これもまぁ、当然痛みはあるが、想定内のものだった。陰茎の上の表皮を3秒くらい爪で強くつねられるくらいの痛み。痛みが続く時間がちょっと長いので表情が歪みはしたが、まぁ大丈夫。
これを5回くらいやるのだが、数秒で麻酔が効いてくるので、痛みらしい痛みがあるのは最初の1~2回だけだ。表面に麻酔をかけた後、少し深いところに針を刺して麻酔する。表面からの麻酔が効いているためか、これも鈍痛。痛さよりも、狭い範囲に何度も針を刺されている気持ち悪さの方が嫌だった。作業はサクサク進むので、そんなことを考えている余裕もほぼないのだが。
手術の具体的方法~切開~
麻酔を入れ終えると、「それじゃ、切りますね」と医者が言うや否やメスが入る。切られるのはこの位置だ。
これが画面にどアップで表示されているのでちょっとギョッとした。
全く痛くないが、わずかに違和感がある。画面に映し出された術部から血が流れ出すが、こまめにガーゼでふき取られるので、あまりスプラッターな感じはしなかった。
表面に切れ込みが入ると、今度は電気メスを使ってその切れ込みを掘り下げていく。静脈瘤に到達するまで繰り返し電気メスが入るのだが、これが思ったより長くかかった。
手術中の痛みと乗り越え方
痛みはほぼないが、常に違和感があるし、電気メスで焦げた自分の肉のニオイが鼻をつく。決して気分の良いものではないが、不思議と画面から目を逸らすことができなかった。恐らく何をされているのかわからない方が怖かったのだと思う。
それに加えて、自分の体の中を覗ける機会などめったにないので少しの面白さもあった。むろん、またやりたいかと言われたら即答でノーだが。
どうにかして「面白さを感じる」というのはこの手術を心穏やかに乗り切るための一つのポイントだと思う。
「へぇー、こうなってるんだー…→いててっ!→ここはこうやるんだ、へぇー…→いててっ!→ここにも膜があるのかぁ…」という具合に。
「早く終わらないかなぁ→いててっ!→もう痛い場面がありませんように…→いててっ!→ほんともう早く終わらせてくれ!→いててっ!→もう嫌だ!!!」というループに囚われるよりずっといいと思う。
手術の具体的方法~静脈の切断~
表皮を切って、脂肪と筋肉をより分けていくと、何枚かの膜状の組織にぶつかる。これをさらに電気メスできれいに切り分けていくと、お待ちかね、膜に包まれた憎き静脈瘤に到達する。
この膜を丁寧に切り開き、バターナイフのような器具で中の血管の束を術部の外に引っ張り出して固定する。このときが一番痛く、全身に脂汗が滲んだ。
引っ張り出された静脈瘤はこんな感じ。
この束には静脈以外にも動脈とリンパ管が通っているらしい。ここから静脈だけを選んで切るのだが、いったいどうやって選ぶのか?なんと音を聞き分けて選ぶのだ。
ここで登場するのが上の図にある「ドップラー血流計」という装置。これは超小型のマイクのようなもので、これを血管に押し当てると中の音が聞こえる。
動脈は私でもわかるくらい特徴的な音がした。心臓の拍動に合わせて「シュッ、シュッ」と音がする。
リンパ管と静脈の違いは私にはよくわからなかった。両方とも「ゴゴゴゴ…」という低い音だ。
私にはわからなかったが、医師たちは迷うことなく静脈だけをよりわけて切り始めた。切り方も、やられてみて初めてわかった。こんな感じだ。
こうすることで、ほとんど出血させることなく血管を切ることができる。医師たちは慣れた手つきで静脈だけを切っていき、最終的には動脈とリンパ管だけを残した。
今回の手術では精管と静脈が複雑に絡まりあっている部分には手をつけていないので、ここの部分の静脈は全て切ってしまって問題ないとのことだった。
手術の具体的方法~縫合~
あとは傷口を閉じておしまいなのだが、ここもとても丁寧だった。切った膜状の組織のうち主要なものは一枚一枚縫い付けていき、最後に表皮の傷口を縫合して終了だ。
最後の傷口を縫合する際に脂肪組織の血管を少し傷つけてしまったらしく、多少出血したが、アザのようなものができるだけで大きな問題はないとのことだった。
最後に、縫合した部分に透明なシールを貼って手術は終了した。手術を開始してから1時間20分ほど経過していた。医師の手術には全く無駄がなく、見事なものであった。二例目で集中力が切れているのではないかという懸念は全くの杞憂に終わった。
ベッドから起き上がるとき、シーツが汗でぐっしょり濡れていることに気が付いた。私は普段そんなに汗をかかない方だが、やはり手術を乗り切るには「頑張る」必要があったようだ。それにしても…疲れた。
手術終了直後
その後、さっきまで寝ていたベッドに案内され、今度は抗生剤を点滴から投与される。ここで2時間ほど安静にし、小便をして問題がなければ帰ってよしとのことだった。
1時間ほどすると、待合室で待っていた妻が来てくれた。数時間しか別れていないが再会したときはなんだか突然感謝の気持ちがこみ上げてきて、少し涙ぐんでしまった。
手術には日常性という麻酔を覚ます効果もあるようだ。軽いとはいえ手術は手術、割と壮絶な経験ではあった。
全く痛くなかったというような書き方のブログもあるが、私にはどうも信じられない。耐えられないほどの痛みではないが、私はそれなりに痛かったし、体の内部を引っ掻き回される気持ち悪さを終始感じていた。
これから手術を受ける人をいたずらに脅すようなことは絶対にしたくない。ただ、本当のことを伏せて全く痛くないというのも何か違う気がする。正確な情報こそが手術への覚悟を決める上で欠かせない材料だと考え、あえて洗いざらい情けない感想を書かせていただいた。
2時間しても特に問題はなかったし、無事に用も足すことができたので、痛み止めの坐薬と飲み薬と抗生物質をもらって病院を後にした。
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