【精索静脈瘤の手術体験談4】術前検査~手術前日|手術失敗のリスクの続きです。
手術前日の夜
季節の変わり目でもあったためか、手術の3日ほど前に風邪を引いてかなり焦った。
ただ、幸いにも手術の前日までにはほぼ完治した。
私は結構な頻度で晩酌をするが、手術前日はさすがに控えた。
この日の晩は布団に入ると手術のイメージがわっと意識に上がってきて、少しだけ寝つきが悪かった。それでも、1~2時間ほどで眠りに落ち、その後はぐっすりと眠れた。
手術当日の朝
当日は朝食を食べられないので、少しだけひもじい気分になる。
また、まだほんの少し喉に違和感があった。
それでも大きな動揺はなく、出かける前は手術の手順を読み返したりした。
ふと、遺言状を書いていなかったことが気にかかりだした。論文を投稿したのだからよいだろうと思っていたのだが、急にそれでは不十分な気がしてきた。
そこで、30分ほどかけてこっそり書いておいた。妻、両親と弟、研究の師匠、そして似たような研究の道を歩んでいる一人の後輩に宛てて。殴り書きとはいえ、生まれて初めて真剣に遺書を書いた。
これで気分がだいぶ落ちついて、晴れやかな気分で車の助手席に乗り込んだ。病院は自宅から車で2時間の場所にあるが、今日は行きも帰りも妻が運転してくれることになっていたのだ。
私の場合は地方病院での手術だったが、この日は東京から専門の先生が二人来てくれるとのことだった。
私の先に手術が一例入っていて私が二例目なので、11時頃に病院に行けばよかった。
この二例目というのはちょっと引っかかった。医者の集中力が切れてしまうのではないか、という不安があったのだ。しかし、そんなことは考えても仕方がなかったので、なるべく考えないようにした。それに後から書くが、それは全くの杞憂であった。
手術費用支払い・手術準備
病院に着くと、まずは会計を済ませた。5万円程度かかるという話だったので一応6万円持ってきていたが、請求されたのは4万円強くらいだった。これは、大変ありがたい。
この病院では普段かなり待つので、行ってもしばらくは待合室にいることになるのだろうとタカを括っていた。が、この日は病院に着くとすぐに別室に通された。
そこは、手術患者が待機したり術後の回復に使用するベッドが並んだ部屋だった。それぞれのベッドはカーテンで仕切られていて、着替えなどが覗かれる心配はなかった。
ベッドの上には手術の際に着る胸元が大きく開いたガウンのような服と、シャワーキャップのような手術用の帽子が置いてあった。まずはこれらに着替え、貴重品をベッドの横のロッカーに入れた。これに着替えると重病人のような見た目になるので、いよいよ緊張してきた。
この部屋のすぐ奥に手術室があり、手術を終えたばかりの患者がまだそこにいるようだった。そこから看護師や医者、患者の声が漏れ聞こえてくるのだが、その様子からどうやら術後の経過が良くないようで、前の患者はしばらく手術室から出られないらしいことが分かった。
このことは、私の恐怖心を大いにあおった。後からわかったことだが、前の患者は私が行った静脈瘤の手術ではなく、何か別の手術をしていたようだった。
私もそこで手術するわけだから、必然的に私の開始時間も遅れる。この待ち時間にはいろいろと考えた。軽い手術とはいえ、自分の体を切って、いろいろな筋肉やら脂肪やら膜状の組織を取り分け、その奥にある血管やらリンパ管やらの束を引きずり出して切るのだ。全く痛くないわけがないだろう。また、自分も今手術室にいる患者のように術後に具合が悪くなる可能性もある…
しかし、引き返したいとは思わなかった。どうしても子供が欲しかったからだ。多少のリスクは承知の上、絶対に乗りきってやる…と静かに決意を新たにしたりした。
点滴の注射・手術室へ
そんなことをしているうちに、看護師が入ってきた。まずは点滴の注射をするのだという。
点滴は初めてだったし、思っていたよりも針が太かったので緊張した。しかし、腹をくくった後だったので、なんなくクリア。もちろんちょっとは痛いが、採血に毛が生えたようなものだ。
すぐに何らかの液体が注入され始めた。注入された腕にひんやりとした感触がある。初めての経験なので少し気持ち悪かった。これが抗生剤なのかと聞いたら、ただの生理食塩水だという。手術前に点滴が体内に入るルートを確保しておいて、あとは適宜それにつなぐパイプを変えることで、体内に入れる薬剤を変えるのだそうだ。つまり、点滴の注射はこれでおしまいとのこと。ホッ、少し安心だ。
看護師が去った後も、しばらくは待ちぼうけだった。手術への覚悟も済ませてしまったし、初めは気持ち悪かった点滴にも慣れ、うつらうつらしていた。
と、手術室の扉が開けられ、看護師に支えられながら前の患者が出てきた。その患者は私の向かいのベッドに寝かされ、看護師と二三言葉を交わした後、看護師が去って病室には我々二人が残された。
…沈黙。たまに向かいの患者が「いてぇ…」とうめいている。そのたびに恐怖心が頭をもたげたが、いまさら後には引けぬと自分を奮い立たせた。
手術室では前の手術道具を片づけ私の分の準備をしているのだろう、慌ただしくガチャガチャとした音が聞こえてくる。いよいよ私の手術が始まるのだ。
ほどなくして看護師がやってきて、「手術室にお入りください」と声をかけてきた。
点滴を入れていたおかげで尿意があったので、点滴をガラガラと引きずって最後に用を足してから(水を全く飲んでいないのに結構な量が出た)、手術室に入った…
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